はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

『ハロルド・フライを待ちながら〜クウィーニー・ヘネシーの愛の歌』で知るハロルド・フライの本当の物語

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bookclub.kodansha.co.jp

初心者おすすめ度★★★★★

 

ページを閉じた瞬間、流れ込んでくる感情が止まらなくて、

もう思うさま泣いてしまいました。

こんなに完璧なラストは信じられない。

そう思ってしまうほど、美しいお終いでした。

 

前作、『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』が大好きで、書店員だったころずっとずっと山盛りに平積みしてかなりのスペースをさいて売っていました。それに見合うだけ売れたのかは疑問ですが、それでも自分の短い書店員時代の中では一番愛着のある仕掛けだったと思います。

だから今回1作目は文庫になり、続編が出る(正確には姉妹編)と聞いたときには孫が出来たかってくらい喜びましたよ。ほんとに。だって海外文学で文庫化なんて一部のめぐまれた作品だけだし、ましてや姉妹編もでるなんて、、、ねぇ。

 

『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』(ジョイス,レイチェル, 亀井よし子):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

 

だからもう読めただけでも幸せなんです。

でも、それが本当に傑作だったんです。

いやほんとこれ以上ないよろこび。

 

まずどちらも読んでいない方のために少しあらすじを説明すると、

『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』は定年を迎えて家でずっとぼんやりすごしているハロルドじいさんの元に、昔の同僚から1通の手紙が届く。そこにはガンで余命わずかであることとお礼がしたためられていた。ショックを受けたハロルドはとりあえず返事を出すためにポストまで行くが、なんとなく投函できずに次のポスト次のポストと歩くうちにそのまま彼女がいる800Km先の街めざして歩き出してしまう。自分が歩いているうちは彼女は死なないと信じて。

 

というむちゃくちゃパンクロックな話が前作です。

 

そして今作は、そのハロルドの昔の同僚クウィーニーの視点で綴られたもうひとつの物語。

実はクウィーニーにはハロルドに言っていなかった秘密があった。

その秘密を最後にうちあけようと、ハロルドがやって来るまでのあいだにつづった手紙が今作という形です。

 

前作ではほぼひたすらハロルドとその妻モーリーンの視点で語られていて、思い出の中がメインだったクウィーニーですが、今回はクウィーニーの考えていたこと、クウィーニーから見たハロルド、そしてハロルドの息子デイヴィッドのことなどが事細かに語られ、前作では見えてこなかった視点が見えてきます。

それがこの物語にものすごく深みを与え、また違った色で見えてくることがすごく新鮮でした。

 

ハロルドは歩くことによって、一歩一歩過去に戻り、自分を振り返り、知らず知らずのうちにふたをしてしまっていた自分の心の中にも、一歩一歩降りていくことをしますが、クウィーニーも同じように、でもこちらは書くことによって自分の心のふたを少しずつ開いていきます。

それはときにかさぶたをはがすような行為でもあり・・・。

決して簡単な告白ではないために、読んでいるほうも思わず息がつまる場面があります。

でもところどころ挿入される自然の描写が本当に美しく。それがよりいっそう人生の儚さやあるがままの姿でいることの美しさを際立たせて、物語に色を添えています。

 

1カ所だけご紹介させていただくと

 

「『ミントのかおりを嗅ぎたい、クウィーニー?』とシスター・キャサリンの声がしました。シスターは茎を一本摘み取り、指のあいだで葉をつぶしました。夏を飲みこむようなすてきな気分でした。」

 

というところ、もう好きで好きで、、、、何度繰り返し読んだことか。

 

一作目の方でもハロルドが見つける道ばたに咲く花や、自然の描写が本当に繊細で美しかったことを思い出しました。

 

もうひとつ、クウィーニーがいるところは修道院のホスピス。当然まわりにいる人たちは死を目前にした人たちなのですが、みんなの会話がとてもユーモアにあふれていて決して暗い雰囲気だけじゃないこと。そしてみんなハロルド・フライをクウィーニーと一緒に待つことで強くなっていくこと。少しずつ変わっていく人たちをとても自然に描いていて驚きました。

 

この物語はふたつではじめて完成する物語だったんだなと思いました。

一作目しか読んでいなかったときに比べ、より深いレベルで作品と向き合うことができた気がします。

 

ふたつの物語には人生の喜び、悲しみ、輝き、過ち、そして生と死、すべての愛がぎゅっとつまっておりました。
 
方や歩く人、方や歩いてくる人を待つ人、ふたりの気持ちがまったく同じ方を向いているわけじゃないこともそれでいいんだと思いました。結局は自分の人生なのだから。
 
悲しいことはたくさんあるし、取り返しがつくわけではないんだけれど、それでも一歩一歩足を前に運ぶこと、それがだいじなんだと思います。
 
そして、あのラスト!
せつない!!
なんてせつない最後なんだろうと思ったけれど、でも完璧なラストでもありました。
著者のやさしさがつまった終わり方でした。
 
人生とは木を見て笑うこと。
人生とはミントのにおいを嗅ぐこと。
人生とはデッキシューズで歩き続けること。
 
なんとでも言えますがその人生とは愛なんだと思いました。
それをハロルドとクウィーニーは教えてくれました。
 
この作品に出会えて本当によかった。
これは折りにふれて幾度も読み返していく大切な本になるでしょう。
 
そしてわたしもいつか、どこかへ向かって歩き出したいな。
行き先は今はまだどこかわからないけれど、ポストに行くついでにふらりといつもの靴で。

 

『書店主フィクリーのものがたり』じんわり堪能する孤島の本屋さん

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初心者おすすめ度 ★★★★

 

島暮らしって憧れます。

特にトーベ・ヤンソンの『島暮らしの記録』を読んだあとは、あの孤高の生活。すぐそこにある荒々しい海。人をよせつけない自然の厳しさの中に落ちている、しんじがたいほど美しい瞬間の数々。そういうものを肌に感じて生きていけたらどんなにかいいだろうと思うことがあります。

 

でもわたしは耐えられないでしょう。

 

なぜならそこには本屋がないから。

 

まぁ、なければ作ればいいって話もあるんですけどね、そんな万里の長城を歩ききるに匹敵するほどの苦労はあんまりしたくないなぁってね。

 

でも完全に余談ですけど、実は日本は島国なんですよね。

以前留学してたときに知り合った友人に、あなたは日本のどの島に住んでるの?って聞かれたときは衝撃だったー。わたし島に住んでる感覚ぜんぜんなかったんで……。

 

って今回はそんな人口が一億人以上いる大きな島の話ではなくて、マサチューセッツ州ハイアニスからフェリーに乗っていく架空の小さな島アリス島のものがたり。

 

そう、ここ”アリス島”にはあるんです。

その夢の本屋”アイランド・ブックス”が(訳して島書店。好きですよそのいさぎよさ)。

あるならそりゃもう住みたいですよ、島。

そしてまたその書店の店主が絵に描いたようながんこもの。悪くないねぇ。

 

アイランド・ブックスは書店主A・J・フィクリーがひとりで切り盛りする島でゆいいつの書店。フィクリーは最愛の妻を事故で亡くした後ふさぎこみ、よりいっそう気難しい性格に。そんなとき、店に突然幼い女の子が置き去りにされていく。最初はとまどうもマヤと名乗るその女の子を育てることに。賢く本好きのマヤと、出版社の女性アメリアの出現で、フィクリーを取り巻く環境はがらりと変わり、二人への愛が徐々に彼の心をとかしてゆく……。

 

というあらすじ。

ストーリーそのものはあまり特別なものはなく、ラストについてはもちろん述べないでおきますが、ある程度予想できるものだと思います。

ただやっぱり本好きとしては、出てくる本の数々に胸がときめくし、本屋に捨てられる子っていうのももちろんかわいそうなんだけれど、ちょっぴりわくわく、、、しちゃいませんか。

そういう設定は初心者にも大変入りやすく、とても読みやすい本だと思います。

 

ただわたし個人の感想としてはもう一歩それぞれの人物に踏み込んでほしかったなあと。わりと深い人生を送っていくそれぞれなのだけど、あともう少し踏み込んでいればもっともっと感動的なものがたりになっていたのではないか……というのがあくまで個人的なわたしの正直な感想です。

 

でもひとつ大変面白かったのは、各章の冒頭に主人公フィクリーの思い入れの強い短篇集が紹介されていて、ロアルド・ダールの『おとなしい狂気』からはじまるどれもクセの強そうな作品たちなのですが、非常に興味をかきたてられます。それにマヤへの短い手紙もついていて、それがいい。どの手紙もマヤとその本への愛であふれているし、ついつい読みたくなるブックガイドにもなっています。

 

個人的に読んだことがあったのはサリンジャーの『バナナフィッシュにうってつけの日』だけだったけれど、フィクリーの言う短編小説を極めればこの世界(小説の世界)を極めることになるだろうということばには、激しく同意したくなりました。

短篇って軽く読めるものとして紹介されることが多いけれど、実はものすごい技術で書かれてるし、たった数ページの中に無限の空間が広がっていることもある。読む方もそれなりの力を求められることが多いと思うんですよね。

 

だからこの本は長編小説でありながら、短編小説への入り口になっているやはりビギナーにはもってこいの本でありました。

島好き、書店好きならば読まない手はないかな。

 

さて次回は、最近読んだ素晴らしかった本のご紹介にするか、それともこのブログの原点ともなったひとつの書店フェアについてのお話とするかちょっと考えております。梅雨が開けない前になんとか更新したいもんですが、最近むすめ(9か月)がやたらと紙を食べちゃうんで目が離せなくて、、、うちの本も危ういです。

早く食べ物とそうじゃないものの区別がつくようになってほしいです。

 

 

『服従』人間の幸福とは……

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初心者おすすめ度 ★★

とっつきにくい。独自の美学がある。恥ずかしがることを恥ずかしく思い強くでてみせてすぐ誤解される。さらに寂しがりやでもあるためにすぐすねる。つまりちょうぜつめんどくさい。でもつきあってみると情に厚い。というか嫉妬深い。めったやたらにおしゃれ。生活空間がまずおしゃれ。だいたいそこそこみんなインテリ。そして偏ったひとつのことに関してはかなりの知識とこだわりをもっている。つまりはおたく。そして変……

 

………というのが、わたしのかなーり偏った目で見たフランス人の印象であります。

やーいろいろおこられそう。すいませんすいません。

でも、今まで出会ったフランス人みんな(といってももちろん10人にも満たないんですけど)多かれ少なかれこういう特色を持っていたので。

あ、念のため言っておきますがわたしフランス人大好きですよ!上記のようなめんどくささがめちゃくちゃおもしろいので(←ほめてるほめてる)。

 

それでこのウェルベックの『服従』ですが、この本自体がもうまるっきりそういうフランス人そのものだなと。思ってしまったわけなのであります。

 

まあ、ウェルベック自身がかなり上のタイプに当てはま………(以下自粛)

 

もちろんそれだけじゃないですよ。むしろこの本の特徴は他のところでもいろいろ書かれているようにその内容の衝撃度が主でしょう。期せずともあのシャルリー・エブド事件の当日に発売になったこの本の内容は、事件によってさらに現実味を帯びて浮かび上がるようになったということもありました。

 

あらためて内容を少し説明すると、2022年のフランスでイスラム政権が樹立し、大学の教授であった主人公の運命は政権交代により、根底からゆすぶられてしまいます。新しい法律ではイスラム教に改宗しなければ教壇に立つことは許されず。他に選択肢として豊潤な年金生活というのも提示され、もちろん自分はそちらを選ぶだろうと思っているのだけれど……。

 

この本のテーマとなるもの、それはもちろん”服従”ということなのだけれど、この“服従“について、やはり大学教授のルディジェは『O嬢の物語』を例にあげ、こう言います。

「人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。……」

ここを読んでわたしは服従が幸福であるという記述にかなり驚いたんですが、実際よく考えてみると人に従うのはたしかに楽。責任はないし、基本的には守られているし、もちろんいろんな形があると思うので一概には言えないけれど、それが幸福、、、、ということも一理あるのかもしれないなぁ。

これに続くイスラム教の記述についてを読むと、あまりに美しく魅力的で、改めてこの宗教の力を感じさせるくだりでした(詳しくはぜひ読んでみてください)。現にイスラム教の人口は年々増え続け2100年には世界第1の宗教人口になるという見方もあるようです。

 

そういうことを考えるとやはり現実に起こりうる世界のような気もしてきて、漠然と怖いなと感じてしまうのだけれど、本当に怖いのは政権がひっくり返ることでも、世界がイスラム教に浸食されていくことでもなくて、流れに簡単に”服従”していく人間の本能なのだと思いました。服従を幸福だと思わせる力を持った流れを誰かが作れるということが恐ろしい。

そこをウェルベックはあぶり出したんじゃないかと。

 

そして冒頭でも書いたフランス人くささ。例えば主人公の生涯を捧げているユイスマンスへの執着。同僚の見下し方。恋人とのつき合い方。やたら出てくる性描写。それからレンジでチンするカレーのパックなんかもそうですが、こういった描写がこの物語にくさみを足してある種のユーモアと人間ぽさを浮かび上がらせます。

それがこの物語全体に人間くささを与えていて、更に言えばそれが先述した”服従”の怖さを増幅させていると感じました。

 

あぁこれはあきらかにかなりくせのある小説です。

 

前回、本屋大賞ははじめての海外文学にいいのではと書いたのに、しょっぱなからくつがえされました。あいすいません。

でもきっとひと癖あるのはこれだけだと思うので、フィクリーはおそらく読む人を選ばない作品でしょう!、、、たぶん。

 

というわけでなかなか骨太な読書時間となりました。

個人的には嫌いじゃなかった。面白かったです!

 

さて次回はフィクリー!


追記:うちにやってきた子猫ちゃん、ノミダニ駆除が終わってワクチンも打ってきました。もうケージの中で遊びたくてウズウズ。。むすめもウズウズ。。

本屋大賞2016!そして本屋大賞翻訳小説部門『紙の動物園』

本屋大賞2016、発表になりましたね(いつの話だよ)。
すみません、春が来たなぁうらうらとぼんやりしてたら一か月すぎてました。

本屋大賞“ と言って思い出すのは、実は亡き父の記憶。
 
何を隠そうわたし“本屋大賞“ というものの存在を最初に父に教えてもらったんです。
あれは記念すべき第一回目の本屋大賞。みなさんご存知小川洋子さんの『博士の愛した数式』が第一位でした。
その本が父の本棚にそっと置いてあり、普段ビジネス書や時代物しか読まないのにめずらしいなと不思議に思って、どうしたのと聞いたのでした。
そしたら、少し得意そうに本屋大賞っていう賞があってな……と。
普段から流行り物なんて……という顔をしているくせにけっこう新しいものが好きだった父。おもしろかったから読んでみろとその本を貸してくれたのでした。
読んでみると本当にすごく面白くて、すぐに小川洋子さんの他の著書を探したことを覚えています。父も同じだったようです。
今では簡単には会えない場所にいってしまった父ですが、一時でも本屋大賞を選ぶ側になっていたわたしを見て、なんて言ったかなと毎年この時期になると想像してしまいます。
 
そうそう、それで何が言いたいのかというと、本屋大賞ってそういう賞ですよねってこと。今まで読んだことない著者の本、自分では選ばないであろうジャンルなんかの、実は面白い本に出会えるのがこの賞です。さらに普段は本屋にすら行かない人たちの足も向けちゃうのがこの賞のすごいところなんだよな。お祭り気分で軽く手に取ってみたらいいんじゃないかと思います。
 
さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、その本屋大賞に翻訳小説部門があるのはご存知でしょうか。
ご存知ないという方、大丈夫!わたしのまわりの本屋、出版関係以外の人たちみんな知りません。そんな方にこそこのブログを読んでいただきたいと思っております。
 
まだまだ知る人ぞ知る賞である本屋大賞翻訳小説部門
わたしは海外文学を読みなれていない方にオススメしてもいいんじゃないかなぁと感じています。そしてこちらもあまり身構えず軽い気持ちで手に取ってもいいんじゃないかなぁと。
 
もちろん、この賞は本屋大賞と同じように書店員の票の数で決まるので、必ずしもすべて初心者むけであるとは言えないのですが、それでもやっぱりたくさんの人たちから支持されたということは、それだけ読みやすくて面白いという要素も上がるのではないかと思うのです。
 
実際昨年、本屋大賞翻訳部門の第3位までを読んでみたのですが、どれも本当に面白く、一気に読みたくなってしまうくらい魅力的だったというのもありますね。
 
さて気になる今年は何が受賞したのかというと
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1位 『書店主フィクリーのものがたり』
2位『紙の動物園』
      『国を救った数学少女』
3位『服従』
      『歩道橋の魔術師』
 
となっております。(『歩道橋の魔術師』は妹に貸し出していて写真を撮れず……すみません、妹め。。)
 
昨年の読書体験がとても楽しかったこともあり、今年もぜひまた読んでみたいと思っていました……が、実はこのうちの3冊がすでに既読でありました!(でかしたわたし)
 
『歩道橋の魔術師』(初心者向け度★★★★★)は自分的昨年のベスト。3位に入って本当にうれしいです。詳しくはこちらに感想を書いていますのでよかったら読んでみてください。

onaka.hateblo.jp

 
『国を救った数学少女』(初心者向け度★★★★)もこちらに感想を書いています。

onaka.hateblo.jp

ノンベコちゃんの勇ましい姿が記憶に新しくて、大変勢いのあるエンターテイメント性の強い物語でした。
 
感想を書いてはいないのですが、実は読んでいるのが『紙の動物園』(初心者向け度★★★★)。

www.hayakawa-online.co.jp

今回はこの本について少し書こうかなと。
 
なんと至上初、ヒューゴー賞ネビュラ賞世界幻想文学大賞の3冠に輝いたというものすごい経歴をもつ作品です(各賞についてめちゃめちゃざっくり説明すると、ぜんぶSFファンタジーのすごい賞です。文学賞なんてこのくらい知ってればいいような気がするんですがさらに知りたい方はこちらへ
 
正直に言うと、わたしはそこまでグッとこなかったので感想文は書かなかったのですが(完全に好みの問題!)、でもこれを傑作だと言う人が多いのは本当に納得できる、非常によくできた短編集でした。
 
まず誰がなんといっても表題作でしょう。中国人の母親が作る折り紙の動物たち。不思議なことにお母さんが作ると動物たちは生き生きと動き出して、そんな動物たちと一緒に遊ぶのが何より楽しかったのに、成長するにつれて中国人の母親がいるという自身のアイデンティティがうとましくなっくる。中国語しか喋らない母をつい邪険に扱ってしまうようになって、、、
異文化の中で生きることの難しさ、そんな難しさをやすやすと超えていく母の深い愛に胸を打たれずにはいられない豊かな一編でした。
 
印象的だったのは「もののあはれ」「結縄」「円弧」「波」などプロットはSFでも、人生の機微や失われていくものへの哀愁など、普遍的な題材を扱ったもの。死や不老不死といった人類にとっての永遠のテーマとも言えるものを、設定は奇抜だけれど、淡々とただそこにあったからとでもいうように語っているものが多く、多くの人が引き込まれる所以ではないかと思います。
 
著者は中国で子供時代を過ごし、それからアメリカに渡った移民。その経歴を存分に生かした独特の雰囲気を持った短篇集だと思います。
 日本でもたくさんの方が評価している作品ですので、一読の価値はあり。それぞれ違った趣のある15編なので、好みにあったものがきっとあるかもしれません。ぜひぜひお試しを。
 
さて、第3位『服従』と第1位の『書店主フィクリーの物語』はまた読んでからレポートしたいと思います。
なんだかまぁ大変のんびりしていてごめんなさい。他にもご紹介したい本がまだまだあるのでなるべく急いでいきたいと思います……が、最近むすめが好奇心のかたまりでますます目が離せなくなってしまって……おまけに捨てられていた子猫ちゃんまでお迎えしてしまったものだから、母ちゃんはおおわらわです。
ぼつぼつゆっくり行きたいと思います。
 
 追記;その子猫ちゃん、まずはノミ、ダニを駆除しなければならず、好奇心いっぱいで何にでもむしゃぶりついてしまう我が家の8か月のむすめと、どうやって隔離しておくか頭がいたい毎日です。。とほほ。
 
 

『10代のためのYAブックガイド150!』フェアに行ってきました。

小さなこどもがいると出かけるのもなかなかどうして、ままならないわけでして。

その子が腹の中でぐにょぐにょのたうちまわっていた昨年からおもしろそうなイベントやフェア、本屋さん訪問など涙をのんで見送ってきたわけです。

 

でも丸善丸の内本店さんで『10代のためのYAブックガイド150!』全点フェアをやるというお話をきいて、しかも4月28日までやっている!(ありがたや長期開催)とのことでこれは行けるのではないかと日程を調整いたしました。あ、と言ってもわたしは現在毎日家にいて特に予定もないので、お出かけの介添えをしてくれる夫の日程を・・・ということですけど。

 

その念願かなって先日、ついに行ってきました。

いや〜どのくらいぶり!?東京駅!!

大きいね〜!人だらけだね〜!

キラッキラしてるね〜!!

と無駄にテンションがあがり、丸善に行きつくまでに迷子になりそうなくらい(いや、駅出て目の前なんですけど・・・)。

 

行ったことがある方はわかるかと思いますが、丸善丸の内本店は丸の内OAZOというビルの1Fから4Fに入っている本屋さんで、すべて見ようと思うと1日くらいあっという間にたってしまう恐ろしくもうれしい場所であります。

  

もし時間があれば雑紙から実用書から文芸文庫とじっくり棚をなめまわし・・・あ、いや拝見していきたいのですが、残念ながら子どもの授乳時間を考えるとあまり時間がとれないので、今回はまっしぐらにフェアの展開されている児童書売り場を目指しました。

 

こちらがそのフェア!!

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※お店の方に許可をいただいて撮影、掲載しております。

どーーーーん!!と迫力満点!

やはり150冊すべて並べると貫禄が違います。

 

メインはこの本、『10代のためのYAブックガイド150!』初心者おすすめ度★★★★★(翻訳物だけじゃないですが、たくさん載ってます!)

www.poplar.co.jp

 

このブックガイドについて少々ご紹介させていただくと、こちらは児童文学の翻訳家金原瑞人さん、児童文学作家であり、評論家のひこ・田中さんが監修されたティーンエイジャー向けのブックガイドです。

 

突然ですけどみなさん”YA"っていう言葉はご存知ですか?

わたし・・・実は書店員になるまで知らなかったんですよね〜。

YAつまりヤングアダルトのことなんですけども、正直このアルファベット2文字・・・いや、ヤングアダルトというジャンルさえ日本ではあんまり浸透していないように感じます。書店に行っても、かなり大きなところじゃなければわざわざYAというジャンルで棚をもうけているところは少ないでしょう(というか日本ではライトノベルになるのか?)。

でも実は海外(特に英語圏かな?)ではものすごくポピュラーなジャンルなのですね。

だからこの手の翻訳小説には、名作があふれているんです!

そしてまだまだ日本では知られてないものが多いです。

 

これを10代に独占させるのはもったいないでしょう!!

このブックガイドはそんな大人のみなさまにもうってつけ。

27人の選者たちによる(まことに恐れ多くもわたしも参加させていただいております)選りすぐりの本たちがジャンルごとになんと150冊も紹介されています。

各ページ、選者たちの推薦文を読んでいるだけでも非常におもしろく、わたしの本はドッグイヤーだらけになりました。

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見てコレ!!

 

翻訳ものだけじゃないし、普通に大人むけに書かれている小説や、ノンフィクション、詩や短歌集などものっているのもうれしいところ。わたし本当に個人的にこういうの欲しかったですよ。なかなかないもの、こんなバラエティ豊かなブックガイド。

 

そしてもう一つ、こういう児童文学ガイドにありがちないつもの名作ばかりとはなっておらず、ここ最近刊行されたものに限って選んだものになっているのもいいんですよね〜。だから、あぁこんなのもあったんだという発見に満ちたものになっているんじゃないかなぁ・・・。

 

さてさて、話をフェアの方に戻しますが、今回わたしが突然伺ってしまったので(何しろ乳児を連れての外出はかなり不確定要素が強いので・・・すみません)残念ながらご担当の兼森さんにはお会い出来ず、きちんとお話を聞くことはできなかったのですが、フェアも中盤にさしかかって『YAブックガイド』かなり売れているようでした。

 

わたしはたくさんドッグイヤーした欲しい本の中から、今回はデイヴィッド・アーモンド『ミナの物語』を購入。

友人からこの物語の後日潭『肩胛骨は翼のなごり』を勧められて、気になっていたのでこちらも合わせて読んでみようと思ったからです。

しかしどっちから読んだらいいんだろう。肩胛骨の方が先に出ているんだからそっちから読むべきなのか、それともそれより前の話なのだからミナの方を読むべきなのか・・・迷うなぁ。

 

児童書コーナーは、このフェアの他にも梨木香歩の『岸辺のヤービ』フェアをやっていたり、金原さんと同じく児童書翻訳家の三辺律子さんが発行しているフリーペーパー『BOOKMARK』のフェアをやっていたり、心躍る展開がたくさんでした(わたしが行った3月下旬時点)。

『10代のためのYAブックガイド150!』のフェアは4月28日まで開催しているそうなので、みなさまもぜひ足を運んでみてくださいね。

 

春は出会いの季節。

みなさまに素敵な本との出会いがありますよう、お祈り申し上げます。