ツイン・ピークスの再来!『ハリー・クバート事件』
”アメリカの片田舎” ”ホットドックスタンドとさびれたパブ” ”少女の行方不明事件” ”誰もが何かを隠しているような不穏な空気” そして ”国道沿いのダイナー”・・・
このキーワード、どうです?なんとなく何か思い出しませんか?
時は90年代、見ればやたらとコーヒーとチェリーパイが食べたくなり、禁断症状を呼び起こすまで、結末を楽しみにさせたあげくの果てにものすんごく無理矢理終わらせ大酷評を得た・・・・・・
あの伝説のドラマシリーズ『ツイン・ピークス』を!
そう、本書はあれを彷彿とさせる強烈な個性を持ったエンタメミステリーなのだ!
でもご安心を!(と言ってもいいのか・・・)著者のジョエル氏は『ツイン・ピークス』は見たことがないと言っていて、似ていると言ってもあの独特の雰囲気のみ。ストーリー、ましてや結末は全然違うので、最後まで飽きることなく楽しめる。
正直ここ最近、これほどわくわくさせてくれた作品は他にない。
何もかも忘れて没頭してしまうほど、食い入るように読んでしまった。
著者のジョエル・ディケールさんはスイス生まれの29歳。
なんとこれが処女作だそう。処女作があっという間にヨーロッパ全土で200万部の大ヒットで、奇しくもこのハリー・クバート事件の主人公マーカスと同じ道を歩んでいる。
たしかにヨーロッパ人が書いたザ・アメリカンという感じは否めないし、荒けずりなところも、力技なところも多々ある。
でもそこが逆にいいのだ。だからこそ有無を言わさぬ力でぐいぐいのめり込ませていく力がこの作品にはあると思う。
ミステリーの紹介の常として、細かいところを書き出すとネタバレしてしまうのがつらいのだけど、ひとつ書いておきたいのは、殺害された少女ノラのこと。物語の現在では少女はすでに白骨化してまっていて、姿形もない。それなのに彼女の存在感がものすごい。
作中のハリーの回想シーンの中だけに出てくるのだけれど、本当に魅力的。15歳なのに、その倍の歳だったハリー・クバートを夢中にさせたのもよくわかる。
ときに10歳の少女のようにあどけなくはしゃぎ、ときに30歳の大人の女性のように物憂げな目をし、まだ行き先の定まらない不安定な美しさは、わたしたちをも魅了する。
こういう存在が中心にいるからこそ、その他の登場人物も生きてくるのではないか。
そう、他にもお決まりと言われるキャラクターがわんさか。
レストランの口うるさい女主人、その女主人の気の弱い夫、たぶん口ひげをはやしてるえらそうな警察署長、商品をヒットさせることしか頭にない大手出版社社長、がんこものだけど根はいい州警察巡査部長・・・などなど、
そして、後半はもうどの人が怪しくてどの人は怪しくないのかわからないほどみんな怪しい!
田舎特有のあどけない悪意を萬円させながら、みんながみんなを疑い、そしてかばい合っていくのでなかなかどうして、事件は二転三転・・・四転五転・・・もうラストはさながらジェットコースターのようにスピードをあげながらめまぐるしく事態は変わってゆく。
まったく夜更かしにぴったりの完璧なポップコーンミステリと言えるだろう。
ページをめくったが最後、寝不足覚悟!!