はじめての海外文学

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『氷』アンナ・カヴァン

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すごいすごいとは聞いていたのだけど、本当にすごかった。
カヴァンの『氷』。
 
これは何なのだ。
全編通して、途切れることのない不穏さ。
主人公がいったい何者なのかも、まったくわからない。ただただひとりの少女を追い続ける。偏執的といえば偏執的だけど、ふたりにどんな過去があるのかも詳しくは明かされないので、どう受け止めていいのかとまどってしまう。
 
一方で、じわりじわりと浸食してくる”氷”の存在もこの物語の不穏さをよりいっそうあおる。”氷”はもう一人の主人公と言ってもいい。とにかく冷たく寒いこの世界に一歩足を踏み入れたら最後、もう戻れないのだ。
 
こういう小説を何と言えばいいのか、さっぱりわからないのだけど、冒頭のクリストファー・プリーストの序文を読むと、これはスリップストリーム文学だと書いてある。なんですかそれは・・・。
Wikipediaさまによると、スリップストリームとは従来のSFやファンタジー、はたまた純文学などの概念にとらわれない、一種の幻想文学もしくは非リアリスティックな文学のこととある。ヴォネガットや、ポール・オースター、なんと村上春樹もここに入るのだという。うおーはじめて知った!!なるほど、たしかに幻想文学と純文学のはざまのような小説かもしれない、この『氷』は。
 
でもだからといって、難しく考えることはないと思う。
五官で感じるものがきっとある。なんといってもこの肌をじわじわとおおいつくしていくような、氷の感触はおそらく他では味わえない読書体験になるだろう。
わたしたちはページをひらいた瞬間から主人公と同じように、氷の世界に迷い込み、さまよい、その目で見ているような錯覚におちいる。そして、気づいたときにはもう抜け出せなくなっている。その恐怖感は一種独特で、もう二度と味わいたくないような、なんだかやみつきになってしまうような、不思議な恐怖なのだ。そして、ラスト。特にすっきりするような終わり方でもないのに、なぜだかある種のカタルシスを感じるという摩訶不思議さ!!目の前がぱぁ〜〜っと開けていくような感じがしたのです。ちょっとこわ、、、。
 
なんだったんだ、、、。
と、読み終えてしばらくは呆然としてしまった。
 
これもう一度読んだら、またまったく違う体験ができそう。
あぁ、たぶんもうはまりこんでる。
自分にとって新しいジャンルだったけど、スリップストリーム、、、わたし、かなり好みかもしれない、、、。ふふふ。