はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

『ジャングル・ブック』ラドヤード・キプリング

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 なつかしい、、、、
そう思う方も多いのではないか。先日、児童文学の名作、キプリングの『ジャングル・ブック』がなんと60年ぶりの新訳で岩波書店から発売された。
わたしは残念ながら子供時代にこの名作と出会ってはおらず、今回はじめて読む機会をもらって楽しませていただいた。ちなみにディズニーの方ともこれまた完全に出会う機会がなく、幸か不幸か、まったくの予備知識なしでジャングルに降り立つことになったのだった。
 
そして、驚いた。
悔しかった。
血が沸き立った。
うらやましく思った。
 
驚いたのは、これはまったくわたしが子どものころ夢見た世界だったから。
悔しかったのは、どうして『シートン動物記』や『ドリトル先生シリーズ』が大好きだったのに、これに出会っていなかったのかということ。
血が沸き立ったのは、あまりにも生き生きとジャングルそのものが脈打つように100年以上も前の物語がよみがえっていたから。
うらやましく思ったのは、ここにいる動物たちに慕われ、敬われ、家族のように暮らしている主人公の少年”モウグリ”に、わたしもなりたいと思ったから。
 
何をかくそうわたしは純粋無垢な少女時代(あったんですけど)、本気でがんばればなんとか動物たちと話すことができるんじゃないかと信じ、その頃家にたくさんいた犬や猫やにわとりをこねくりまわし、なんとか言っていることをわからせようと剣闘した結果、犬にはただただ遊んでくれるんだね!っと期待をこめた目で見つめ返され、猫には完全に無視され、にわとりにいたっては無視すらされず、何事もなかったかのようにえさをついばみ続けられ心折れる、、、ということを繰り返していた。そして一時は馬やふくろうなど物語に出てくる動物にあこがれ、本当に本気でムツゴロウ王国への参入をたくらんでいたのだが、母にああいうところは朝すんごく早いのよと脅されあっけなくあきらめたりもした。(根性はありません)
 
それからぬいぐるみとかよりも、↓こういうリアルな猛獣フィギュアが好きだったので、もし、もしもわたしが子どものときにこの本を読んでいたら、間違いなく『ジャングル・ブック』ごっこができたのになぁと涙ながらにハンカチをかむいきおいだ。
 

www.toysrus.co.jp

そんな子ども時代の思い出がわーっとかけめぐって、ひさしく感じていなかったきゅっとなるようなワクワク感が思う存分楽しめた、たいへん幸せな読書だった。
 
ストーリーはきっとわたしよりみなさんのほうがご存知だと思うけど、ジャングルで虎に襲われた人間の子どもがオオカミに助けられ、育てられて、ジャングルの掟のもとにさまざまな種族と助け合いながら、のちにジャングルの主となっていくお話。
 
時代はイギリス統治時代のインドで、今読むと完全にインドの原住民たちは位が下に描かれているので違和感を感じるかもしれないけれど、キプリングが生きていた時代にはそれが普通のことだったのだと思う。
どちらにしてもジャングルに生きる民たちからしてみれば、人間というのは不可解で危険な生き物なのだ。モウグリは人間といえど、オオカミのお乳で大きくなり、ひぐまのバルーにジャングルのおきてを学び、黒ひょうのバギーラに勇気を、ニシキヘビのカーからは叡智をそれぞれ受け取ってゆく。
それぞれのキャラクターも本当に魅力的で、わたしは大きなヘビのカーが大好きになった。彼が不思議なダンスで猿たちを惑わしていくシーンや、ジャッカルたちを知恵で追いやっていく場面は最高にスリルあふれる沸き立つ場面となっている。
そして、特筆すべきは三辺律子さんによる新訳。一行一行からジャングルの息吹が五感に感じられるような、生命力にあふれた文章で非常に魅力的でした。
 
ご本人からお話を伺う機会があったので、ちらりと気になる裏話を聞いてみました。
まずなぜ今『ジャングル・ブック』なのかというところが気になるのですが、これは偶然、岩波書店のほうから60年ぶりに新訳を出したいという話が三辺さんにあり、子どものころから100回以上は読んでいる愛読書だったということもあったし、大学の講義中にも今の子たちは古典の訳は読みにくいと思っていることがよくわかったそうで、新訳を出せばもっと広い範囲でよみがえる作品があるのではないかと思ったのだそうです。
三辺さんは翻訳のいいところのひとつは、そうやって何度でも復活させることができることだと仰っていて、本当にそのとおりだなぁと何度もうなずいてしまいました。
それから、大変だった点はどんなところか聞いてみたところ、これはやはり19世紀の古い英語を今の日本語に翻訳するという点は非常に苦労されたそうです。いつもならわからないところは作者に聞くところも、今度ばかりはそうもいかないですしね、、、と笑って仰っていました。なるほど、、、そんな問題もあるのか。
現在、さらにキプリングの他の本も翻訳中とのことで、そちらも本当に楽しみですね!
 
なんと赤羽の素敵な絵本専門店、青猫書房さんで6/27(土)14:00から
翻訳者 三辺律子さんと 編集者 須藤建さんの対談が開催されるそうです。編集後記的なお話もたくさん聞けるんじゃないかとわくわく。
そして、今回表紙と挿絵を担当された五十嵐大介さんの原画展も同店舗にて開催中とのことです。この絵がまた素敵なのだよな〜!ぜひぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?