はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

『服従』人間の幸福とは……

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初心者おすすめ度 ★★

とっつきにくい。独自の美学がある。恥ずかしがることを恥ずかしく思い強くでてみせてすぐ誤解される。さらに寂しがりやでもあるためにすぐすねる。つまりちょうぜつめんどくさい。でもつきあってみると情に厚い。というか嫉妬深い。めったやたらにおしゃれ。生活空間がまずおしゃれ。だいたいそこそこみんなインテリ。そして偏ったひとつのことに関してはかなりの知識とこだわりをもっている。つまりはおたく。そして変……

 

………というのが、わたしのかなーり偏った目で見たフランス人の印象であります。

やーいろいろおこられそう。すいませんすいません。

でも、今まで出会ったフランス人みんな(といってももちろん10人にも満たないんですけど)多かれ少なかれこういう特色を持っていたので。

あ、念のため言っておきますがわたしフランス人大好きですよ!上記のようなめんどくささがめちゃくちゃおもしろいので(←ほめてるほめてる)。

 

それでこのウェルベックの『服従』ですが、この本自体がもうまるっきりそういうフランス人そのものだなと。思ってしまったわけなのであります。

 

まあ、ウェルベック自身がかなり上のタイプに当てはま………(以下自粛)

 

もちろんそれだけじゃないですよ。むしろこの本の特徴は他のところでもいろいろ書かれているようにその内容の衝撃度が主でしょう。期せずともあのシャルリー・エブド事件の当日に発売になったこの本の内容は、事件によってさらに現実味を帯びて浮かび上がるようになったということもありました。

 

あらためて内容を少し説明すると、2022年のフランスでイスラム政権が樹立し、大学の教授であった主人公の運命は政権交代により、根底からゆすぶられてしまいます。新しい法律ではイスラム教に改宗しなければ教壇に立つことは許されず。他に選択肢として豊潤な年金生活というのも提示され、もちろん自分はそちらを選ぶだろうと思っているのだけれど……。

 

この本のテーマとなるもの、それはもちろん”服従”ということなのだけれど、この“服従“について、やはり大学教授のルディジェは『O嬢の物語』を例にあげ、こう言います。

「人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。……」

ここを読んでわたしは服従が幸福であるという記述にかなり驚いたんですが、実際よく考えてみると人に従うのはたしかに楽。責任はないし、基本的には守られているし、もちろんいろんな形があると思うので一概には言えないけれど、それが幸福、、、、ということも一理あるのかもしれないなぁ。

これに続くイスラム教の記述についてを読むと、あまりに美しく魅力的で、改めてこの宗教の力を感じさせるくだりでした(詳しくはぜひ読んでみてください)。現にイスラム教の人口は年々増え続け2100年には世界第1の宗教人口になるという見方もあるようです。

 

そういうことを考えるとやはり現実に起こりうる世界のような気もしてきて、漠然と怖いなと感じてしまうのだけれど、本当に怖いのは政権がひっくり返ることでも、世界がイスラム教に浸食されていくことでもなくて、流れに簡単に”服従”していく人間の本能なのだと思いました。服従を幸福だと思わせる力を持った流れを誰かが作れるということが恐ろしい。

そこをウェルベックはあぶり出したんじゃないかと。

 

そして冒頭でも書いたフランス人くささ。例えば主人公の生涯を捧げているユイスマンスへの執着。同僚の見下し方。恋人とのつき合い方。やたら出てくる性描写。それからレンジでチンするカレーのパックなんかもそうですが、こういった描写がこの物語にくさみを足してある種のユーモアと人間ぽさを浮かび上がらせます。

それがこの物語全体に人間くささを与えていて、更に言えばそれが先述した”服従”の怖さを増幅させていると感じました。

 

あぁこれはあきらかにかなりくせのある小説です。

 

前回、本屋大賞ははじめての海外文学にいいのではと書いたのに、しょっぱなからくつがえされました。あいすいません。

でもきっとひと癖あるのはこれだけだと思うので、フィクリーはおそらく読む人を選ばない作品でしょう!、、、たぶん。

 

というわけでなかなか骨太な読書時間となりました。

個人的には嫌いじゃなかった。面白かったです!

 

さて次回はフィクリー!


追記:うちにやってきた子猫ちゃん、ノミダニ駆除が終わってワクチンも打ってきました。もうケージの中で遊びたくてウズウズ。。むすめもウズウズ。。