はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

『天使の恥部』プイグの描く母性

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あーあ、早くも2月が終わろうとしてますね。

 

2月は毎年寒さで震えている以外はとくに何もすることがない月ですが、一日だけ例外の日があります。

 

なんとわたしの誕生日があります。

 

まぁこの年になって誕生日がうれしいとかないですけど、、、、、ってたぶん妙齢の女子なら普通言うんだと思うんですが、なんかねいくつになっても誕生日うれしいですよ。

またひとつ年をとって、健康でいられて、美味しいもの食べられて、そして本が読める!これ以上幸せなことないね。ばばくさいか。

 

それにプレゼントがもらえます。

 

母にも、義母にも、おばあちゃんにもいただきました。ありがとうありがとう。

そしてだんなはんからは、なんと紀伊國屋で好きなだけお買い物していい券(ただし空気読めよとボソリ)!

こんなうれしいプレゼントはないでしょう。

いやさすがにわたしも一家の主婦ですから、家計の事情くらいはわかっておるつもりですので、ブレーキはかけますよ。

でもそれにしても最高です。

しかも2時間むすめをだんなはんに預け、自由に見てよしと!!

 

ほんとにほんとにほんとにほんとにいいんですかーーーーーーーー!!!!!

 

と大興奮の2時間でした。

 まあ実際やってみると2時間!?足りなすぎる!!って感じでしたけど。

 

買った本をざっくりご紹介すると

 

『天使の恥部』マヌエル・プイグ

エドウィン・マルハウス』スティーヴン・ミルハウザー

『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス

『僕の名はアラム』ウィリアム・サローヤン
『冬の夜ひとりの旅人が』イタロ・カルヴィーノ

『植物は<知性>をもっている』ステファノ・マンクーゾ/アレッサンドラ・ヴィオラ

『小さなトロールと大きな洪水』トーベ・ヤンソン

ムーミン谷の仲間たち』トーベ・ヤンソン

『しきぶとんさんかけぶとんさんまくらさん』高野文子

 

っていうところです。

だいぶ空気読んだな自分。。

 

さてさてその中の『天使の恥部』をさっそく読み終えましたので、今回はそちらの感想を書いてみたいと思います。

 

初心者オススメ度は ★★★

 

いや実は南米文学にうといのです。

今までほとんど読んだことありません。

特に何かそこを避けてきたわけじゃないんですけど、他に読むものがたくさんありすぎてそっちまでいかなかったというのが本音です。

だからもちろん初めてのプイグ作品だし、はじめてのアルゼンチン文学でもあります。それでこれを選んじゃったのは、もしかしてはやまったかなぁという気持ちが読んでいる間実はふつふつと浮かんでいました。

 

だってけっこう難解だったので。

 

この物語は現在の女”アナ”を軸として、過去の女”女優”と、未来の女”W218”という3人の女の運命を描いたもの。時代も背景もまったく違うけれど途中から物語は奇妙にシンクロしてゆく。

ウィーン近郊の屋敷に囲われた絶世の美女”女優”。映画スターの彼女は死者との契約により30歳になると他人の思考が読めるようになるという秘密があり、その後陰謀に巻き込まれてゆく。地殻変動後の未来、性的治療部で働く”W218”は理想の男性と出会い、いつの日かその男性と供に歩んでいくことを夢見るようになる。しかしやはり彼女も30歳にならないうちに他人の思考が読めるようになり、、、。そのあいまにメキシコシティの病院のベッドの上でのアナの語り、友人や恋人との会話が差し挟まれてゆくというもの。

 

おもしろそうでしょ。あらすじは。

 

プイグはもともと映画監督を目指していたそうで、やはり映像畑の人らしい場面の切り替わりが目立ち、細かい描写なども映像映えしそうな雰囲気があります。

 

だからすごく想像しやすいし、会話なんかも非常に緊迫感があったり生々しかったりして、一度入り込んでしまえば抜け出せないようなおもしろさがありました。

 

それでどの辺が難解だったかというと、これはもうわたしの勉強不足でしかないんですが、アナがおかれている状況がかなりアルゼンチンの政治がからんでいるので、歴史や政治を理解していないとなかなか理解が難しいところがあります。それからこの本が書かれたのが1979年なのですが、当時の女性たちの生活。フェミニストたちの活動なんかも知っていたほうがよかったんだろうなと思います。スペイン語圏は(もちろんだけじゃないけど)いまだにマチスモ(男性優位主義)のはびこる世界ですから、当時はもっともっとずっとそれが強かっただろうし、男性優位が当たり前の世界で生きる女性たちの生き方にスポットライトを当てたとしても何の不思議もありません。

まあでも最初に読んだときわたしはプイグは女性だと思ったので、男性だと知ってちょっとびっくりしたのですが。

 

この本おそらくいろんな読み方ができる本だと思います。

 

解説や裏表紙にもあるように、様々なジャンルを掛け合わせて作り上げられた幻想的な物語なので人によって捉え方がかなり違ってくるんじゃないかなと思います。

 

この本で読書会をしたらおもしろそう。

 

わたしは ”母と娘” の物語として読みました。

読み終えた今は多少理解できないところがあったとしても全然問題ないし、大事なところはそこにはなかったと思うので、同じように政治や歴史にうとい方でも大丈夫。

この物語は母なる女性の物語だと思います。

 

一度は駆け落ちする男の子どもを産みながらも、仕事に囲われその娘を捨てる”女優”。その事情を新聞で知り自分がその娘ではないかと疑う母の顔を知らない”W218”。そして同じく娘を産みながらも故国に置き去りにし、娘が理解できないと離れてくらす”アナ”。

 

過去と未来の女ふたりと現在の女アナの関係は、おそらく読んでいくうちにわかると思いますがここでは書かないでおきます。

 

とにかくそのふたりの行く末を見届けてアナが出す答えは、、、。

最終章を読んで、なんとも言えない気持ちになりました。胸をふさいでいたものがすうっと流れたような。とにかくひとつ力一杯うなずきたくなるような。そんなラスト。

 

男とはなんだろう。女とはなんだろう。はるか昔から星の数ほどくり返されてきた疑問がやっぱりうかんできます。

どれだけもっともらしい理屈をつけても、きっとそれははかりしれないもの。

結局わたしたちの手には余る問題なのかもしれません。

 

プイグはそれでこんなタイトルをつけたのではないかしら、、、。

というのはただのわたしの想像です。