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はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

これぞ正統派じじい小説! カルミネ・アバーテ『ふたつの海のあいだで』

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初心者おすすめ度★★★★

 

カルミネ・アバーテのことは前作『風の丘』で知りました。そのときからすごく気になっていて、読みたかったのだけどなかなか手に取ることができず、この『ふたつの海のあいだで』が出ると聞いたときには絶対に読もうと思っていました。

 

けっこうイタリア文学が好きです。

なんといってもアントニオ・タブッキが大好きなので、イタリア文学の新刊が出ると毎回気になっています。でもね、とにかくその新刊が少ない!全然全部読めていない分際でそんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、イタリア文学はアメリカやイギリス、フランス、ドイツなどと比べて、いやアルゼンチンなどのラテンアメリカなどと比べても翻訳が少ないと思います。

だってタブッキ亡き今、現役の作家で翻訳されてる人ってだれ!?児童文学、YAはまだいると思いますが、普通に現代文学のとなると、、、うーん、思いつきません。わたしが勉強不足なだけかもしれないけど。思いつく人みんな死んでる!

 

そんななかのアバーテです。バリバリ現役です。これは大変喜ばしいことだと思います。

 

そしてさらに喜ばしいことに、その作品が素晴らしかった。

イタリア文学といってもそれはもちろんいろいろなタイプがあるのだろうし、現地の主流がどういうものなのか、イタリア語のできないわたしには知るよしもないのですが、少なくとも今まで翻訳されてきたイタリア文学の毛色とは少々違うタイプだなぁと感じました。

 

今まではほんとうに良い意味で独自の世界観持ちすぎな作品や、重厚な作品が多かったような気がするのですが(それ故翻訳が少ないのかとも思っていた)、この作品はすごく正統派な上に軽さがあって読みやすい。古き良きということばがパッと出てくるような印象をまずは与えてくれました。

 

わかりやすい例えをあげるとすれば『ニューシネマパラダイス』の世界。ああいう雰囲気の、渋いイタリアでした。

 

イタリア映画といえば強烈に個性の強いおじいちゃんが出てくることで有名ですが(わたしの中でですけど)、この作品もそんなおじいちゃんがでてきます。

 

一族の長ジョルジョ・ベッルーシは焼失してしまった伝説の宿 “いちじくの館“ の再建を心に決め、執念ともいえるしがみつきかたで少しずつ夢にむかう。再建には土地の地上げ屋たちの半端ない妨害(ちょっとゴッドファーザーの世界)に合いつつも、決して諦めようとしないベッルーシの不屈の精神は恐ろしいほどでもある。

そんな彼が夢の達成を目前にして突然逮捕されてしまう。忽然と消えたベッルーシ。子どもだったため事情をなかなか知らされない孫の僕フロリアンは、憤懣やる方ない気持ちを持て余し、行き場のない怒りを抱えたまま大人になっていく。

 

けっこうじじい小説が好きです。強烈な個性をはなっているとなおさら。『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』もそうだし『窓から逃げた100歳老人』もそうだし、読んでるとなんだかパワーをもらえます。この小説はそんなじじいファンの心もしっかり満たしてくれます。

 

そんなじじい……もとい、おじいちゃんを見たフロリアンからの視点で、物語は彼の語りのことばで構成されます。それは家族の話をする1人の男の子の私情を多分に含んだ見方から、大人になり客観的に飲み込めるようになるまで非常にうまく流れており、本当に1人の男の子が語った物語としてのみずみずしさに溢れているのです。

非常にわくわくする読書であり、まるで真新しい “いちじくの館“ の居心地の良い暖炉の前で、ふかふかの椅子に腰掛けながら話に耳を傾けていたような気持ちになってきます。

 

タイトルのふたつの海は物語の舞台、イタリアの最南端に位置するカラブリア地方のふたつの海(ティレニア海イオニア海)にはさまれた “いちじくの館“ を意味しているのだそうだけど、それだけではなく、後書きによるとフロリアンが生まれた土地ドイツの北海と母の故郷のこの南イタリアの地中海とのあいだ。それからもう1人の強烈な祖父(この祖父の活躍も見もの)の住むハンブルクとベッルーシの住むカラブリアというふたつの相対する土地や風俗、人々の気質なども暗示されているそうです。

 

著者のアバーテがこのカラブリア州出身ということもあり、少数言語アルバレシュ語が話される歴史の複雑な土地ということをキーとして物語を書いていることもあって、人々のルーツを考えていくような、血というものの根っこをつかむような物語でした。

 

というと少し難しそうな気もしてきますが、読んでみるとまったくそんなことはなく、一つの家族の物語がドラマチックに展開されていくし、ことばも非常に美しく、映像が目に見えるようなので、本当に一本映画を見るような感覚で読める一冊だと思います。

 

南イタリアの芳醇な風の中で、豊かな景色があり、生きる喜びがそこに感じられる作品でした。とても素晴らしかった。

 

今後もこの作家さんの新作に期待していきたいと思います。

まずは他の翻訳も読まなくちゃ。