はじめての海外文学

頭がふっとぶほどおもしろい海外文学のお話や、イベント、本屋さんのお話など本にまつわることを中心に書いていきます

『ストーナー』ジョン・ウィリアムズとイベント「ことばの魔術師 翻訳家 東江一紀の世界」

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6月13日(土)つまりそれは昨日のはなしですけれども。
楽しみにしていたイベントにいってきた。
半年以上前から、翻訳家、東江一紀(あがりえ かずき)さんの門下生さんたちと、同じく翻訳家の越前敏弥さんが丹念に準備していた「ことばの魔術師 翻訳家 東江一紀の世界」フェアのトークイベントだ。
この6月で一周忌になるという東江さんの追悼フェアをやりたいというお話は、前々から聞いていて、書店員だったときからすごく楽しみにしていたフェアだった。
 
さっそくまずは往来堂さんで、フェアの様子を拝見。
店頭一番目立つ入り口の棚で展開されていて、点数は少ないながらも(残念ながら東江さん訳書は絶版も多いため)、先日”日本翻訳大賞 読者賞”を受賞した『ストーナー』をはじめ、ドン・ウィンズロウなど代表作が並んでいる。それぞれにPOPもついていてどれも手にとりたくなってしまった。
 
往来堂さんは本当にいろんな読書家たちが、こんな店が近所にあったら、、、、となげくのがよくわかる。おもしろい仕掛け棚があちこちにあり、地域に根ざした本はすごく充実していて、あってほしい本はちゃんとあり、なおかつ新しい発見もできるような棚作りだと思った。”はじめての海外文学フェア”もここちらのお店で展開していただいていたので、やっぱり展開中に一度おじゃましたかったーっと改めて思う。あまりゆっくり見る時間がなかったのが残念。またぜひ行きたいなぁ。
 
その往来堂さんで、空犬さんとばったり会って、イベントまでご一緒することに。
はじめての海外文学フェアトークイベント以来だったので、とてもうれしい再会でした。
会場は根津駅近くにある”ふれあい館”。公民館のようなところだそう。
そしてなんと今日のイベント、定員150名満員なのだそうだ。
改めてその偉大さを思う。
イベントは、これからも大阪などで続いてゆくので詳しい内容についてはふれないけれど、90分があっという間にすぎた。普段は聞くことのできない翻訳についての話や、東江さん独自の考え方などにもふれることが出来て、大変おもしろかった。配られた小冊子も読み応えたっぷりで、合わせて読めば、より深く知ることができてとてもよかった。終わってから、紹介された本全部読みたくなってしまい、こまったこまった。
 
しかし翻訳という仕事は、本当になんて奥が深いのだろうか。
なんというか知の深淵に降りていく仕事というか。どこまで降りられて、そしてそれをいかに悟られないか、そこが非常に大切な仕事なのではないかと思った。かっこえー。
いやーわたし全然そんな知識はないけれど、人生をもう一度やり直せるなら、今度は翻訳家を目指してみたい!そんなことを無謀にも思ってしまうほど、興味をそそられました。
 
さて、そんな東江さんが死の直前まで訳し、遺作となったジョン・ウィリアムズの『ストーナー』を読んでみた。
原書はいまから50年前にアメリカで刊行され、それからずっとほぼ忘れ去られていた。でも2006年に復刊されたおりにフランスで再評価され、世界に広がることとなったのだそうだ。
 
”完璧に美しい小説”
この帯の文言はもうこれ以上ないほど、この小説を表していると思う。
内容を記してしまえば、ひとりの男が文学に魅せられ教師になるというただそれだけの物語。でも、その文章は読んでみると、わたしたちはなんて貴重で大切な時をすごしているんだろうと、はっとさせられる愛に満ちている。
一生を生きるということは、これほどまでに大切な時間の積み重ねなんだなぁ。そういうことが、たんたんと綴られる文章の中に驚くほど強く感じられた。
右手の細い指に一本の煙草、深くひと吸いし、細い煙を吐き出す、、、そんなひとつの動作がこれでもかというほど丁寧に丁寧に書かれる。読むとなぜだかその動作が、とてつもなく愛おしく感じてしまい、さほど幸福なシーンでもないのに、幸せを感じてしまうという不思議な現象が、読んでいるあいだ何度も何度も訪れた。
 
こんな読書体験今まであっただろうか。
 
もし、この本に昨年中に出会っていたら、間違いなく私的ベストはひっくり返ってたなぁ、、、。すばらしかった。
そして、もうこの翻訳以外はありえないという気がする。
これほどすばらしい仕事を最後に遺してくださった、東江一紀さんに心からの敬意を表します。知るのが遅かったけれど、でも出会えてよかった。本当にありがとうございました!
 
他の訳書もどんどん読んでみようと改めて思いました。
そして、この後出るものもあるかも、、、とのことなので、わくわく心待ちにしたいと思います。