『書店主フィクリーのものがたり』じんわり堪能する孤島の本屋さん
初心者おすすめ度 ★★★★
島暮らしって憧れます。
特にトーベ・ヤンソンの『島暮らしの記録』を読んだあとは、あの孤高の生活。すぐそこにある荒々しい海。人をよせつけない自然の厳しさの中に落ちている、しんじがたいほど美しい瞬間の数々。そういうものを肌に感じて生きていけたらどんなにかいいだろうと思うことがあります。
でもわたしは耐えられないでしょう。
なぜならそこには本屋がないから。
まぁ、なければ作ればいいって話もあるんですけどね、そんな万里の長城を歩ききるに匹敵するほどの苦労はあんまりしたくないなぁってね。
でも完全に余談ですけど、実は日本は島国なんですよね。
以前留学してたときに知り合った友人に、あなたは日本のどの島に住んでるの?って聞かれたときは衝撃だったー。わたし島に住んでる感覚ぜんぜんなかったんで……。
って今回はそんな人口が一億人以上いる大きな島の話ではなくて、マサチューセッツ州ハイアニスからフェリーに乗っていく架空の小さな島アリス島のものがたり。
そう、ここ”アリス島”にはあるんです。
その夢の本屋”アイランド・ブックス”が(訳して島書店。好きですよそのいさぎよさ)。
あるならそりゃもう住みたいですよ、島。
そしてまたその書店の店主が絵に描いたようながんこもの。悪くないねぇ。
アイランド・ブックスは書店主A・J・フィクリーがひとりで切り盛りする島でゆいいつの書店。フィクリーは最愛の妻を事故で亡くした後ふさぎこみ、よりいっそう気難しい性格に。そんなとき、店に突然幼い女の子が置き去りにされていく。最初はとまどうもマヤと名乗るその女の子を育てることに。賢く本好きのマヤと、出版社の女性アメリアの出現で、フィクリーを取り巻く環境はがらりと変わり、二人への愛が徐々に彼の心をとかしてゆく……。
というあらすじ。
ストーリーそのものはあまり特別なものはなく、ラストについてはもちろん述べないでおきますが、ある程度予想できるものだと思います。
ただやっぱり本好きとしては、出てくる本の数々に胸がときめくし、本屋に捨てられる子っていうのももちろんかわいそうなんだけれど、ちょっぴりわくわく、、、しちゃいませんか。
そういう設定は初心者にも大変入りやすく、とても読みやすい本だと思います。
ただわたし個人の感想としてはもう一歩それぞれの人物に踏み込んでほしかったなあと。わりと深い人生を送っていくそれぞれなのだけど、あともう少し踏み込んでいればもっともっと感動的なものがたりになっていたのではないか……というのがあくまで個人的なわたしの正直な感想です。
でもひとつ大変面白かったのは、各章の冒頭に主人公フィクリーの思い入れの強い短篇集が紹介されていて、ロアルド・ダールの『おとなしい狂気』からはじまるどれもクセの強そうな作品たちなのですが、非常に興味をかきたてられます。それにマヤへの短い手紙もついていて、それがいい。どの手紙もマヤとその本への愛であふれているし、ついつい読みたくなるブックガイドにもなっています。
個人的に読んだことがあったのはサリンジャーの『バナナフィッシュにうってつけの日』だけだったけれど、フィクリーの言う短編小説を極めればこの世界(小説の世界)を極めることになるだろうということばには、激しく同意したくなりました。
短篇って軽く読めるものとして紹介されることが多いけれど、実はものすごい技術で書かれてるし、たった数ページの中に無限の空間が広がっていることもある。読む方もそれなりの力を求められることが多いと思うんですよね。
だからこの本は長編小説でありながら、短編小説への入り口になっているやはりビギナーにはもってこいの本でありました。
島好き、書店好きならば読まない手はないかな。
さて次回は、最近読んだ素晴らしかった本のご紹介にするか、それともこのブログの原点ともなったひとつの書店フェアについてのお話とするかちょっと考えております。梅雨が開けない前になんとか更新したいもんですが、最近むすめ(9か月)がやたらと紙を食べちゃうんで目が離せなくて、、、うちの本も危ういです。
早く食べ物とそうじゃないものの区別がつくようになってほしいです。
『服従』人間の幸福とは……
初心者おすすめ度 ★★
とっつきにくい。独自の美学がある。恥ずかしがることを恥ずかしく思い強くでてみせてすぐ誤解される。さらに寂しがりやでもあるためにすぐすねる。つまりちょうぜつめんどくさい。でもつきあってみると情に厚い。というか嫉妬深い。めったやたらにおしゃれ。生活空間がまずおしゃれ。だいたいそこそこみんなインテリ。そして偏ったひとつのことに関してはかなりの知識とこだわりをもっている。つまりはおたく。そして変……
………というのが、わたしのかなーり偏った目で見たフランス人の印象であります。
やーいろいろおこられそう。すいませんすいません。
でも、今まで出会ったフランス人みんな(といってももちろん10人にも満たないんですけど)多かれ少なかれこういう特色を持っていたので。
あ、念のため言っておきますがわたしフランス人大好きですよ!上記のようなめんどくささがめちゃくちゃおもしろいので(←ほめてるほめてる)。
それでこのウェルベックの『服従』ですが、この本自体がもうまるっきりそういうフランス人そのものだなと。思ってしまったわけなのであります。
まあ、ウェルベック自身がかなり上のタイプに当てはま………(以下自粛)
もちろんそれだけじゃないですよ。むしろこの本の特徴は他のところでもいろいろ書かれているようにその内容の衝撃度が主でしょう。期せずともあのシャルリー・エブド事件の当日に発売になったこの本の内容は、事件によってさらに現実味を帯びて浮かび上がるようになったということもありました。
あらためて内容を少し説明すると、2022年のフランスでイスラム政権が樹立し、大学の教授であった主人公の運命は政権交代により、根底からゆすぶられてしまいます。新しい法律ではイスラム教に改宗しなければ教壇に立つことは許されず。他に選択肢として豊潤な年金生活というのも提示され、もちろん自分はそちらを選ぶだろうと思っているのだけれど……。
この本のテーマとなるもの、それはもちろん”服従”ということなのだけれど、この“服従“について、やはり大学教授のルディジェは『O嬢の物語』を例にあげ、こう言います。
「人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。……」
ここを読んでわたしは服従が幸福であるという記述にかなり驚いたんですが、実際よく考えてみると人に従うのはたしかに楽。責任はないし、基本的には守られているし、もちろんいろんな形があると思うので一概には言えないけれど、それが幸福、、、、ということも一理あるのかもしれないなぁ。
これに続くイスラム教の記述についてを読むと、あまりに美しく魅力的で、改めてこの宗教の力を感じさせるくだりでした(詳しくはぜひ読んでみてください)。現にイスラム教の人口は年々増え続け2100年には世界第1の宗教人口になるという見方もあるようです。
そういうことを考えるとやはり現実に起こりうる世界のような気もしてきて、漠然と怖いなと感じてしまうのだけれど、本当に怖いのは政権がひっくり返ることでも、世界がイスラム教に浸食されていくことでもなくて、流れに簡単に”服従”していく人間の本能なのだと思いました。服従を幸福だと思わせる力を持った流れを誰かが作れるということが恐ろしい。
そこをウェルベックはあぶり出したんじゃないかと。
そして冒頭でも書いたフランス人くささ。例えば主人公の生涯を捧げているユイスマンスへの執着。同僚の見下し方。恋人とのつき合い方。やたら出てくる性描写。それからレンジでチンするカレーのパックなんかもそうですが、こういった描写がこの物語にくさみを足してある種のユーモアと人間ぽさを浮かび上がらせます。
それがこの物語全体に人間くささを与えていて、更に言えばそれが先述した”服従”の怖さを増幅させていると感じました。
あぁこれはあきらかにかなりくせのある小説です。
前回、本屋大賞ははじめての海外文学にいいのではと書いたのに、しょっぱなからくつがえされました。あいすいません。
でもきっとひと癖あるのはこれだけだと思うので、フィクリーはおそらく読む人を選ばない作品でしょう!、、、たぶん。
というわけでなかなか骨太な読書時間となりました。
個人的には嫌いじゃなかった。面白かったです!
さて次回はフィクリー!
追記:うちにやってきた子猫ちゃん、ノミダニ駆除が終わってワクチンも打ってきました。もうケージの中で遊びたくてウズウズ。。むすめもウズウズ。。
本屋大賞2016!そして本屋大賞翻訳小説部門『紙の動物園』
『10代のためのYAブックガイド150!』フェアに行ってきました。
小さなこどもがいると出かけるのもなかなかどうして、ままならないわけでして。
その子が腹の中でぐにょぐにょのたうちまわっていた昨年からおもしろそうなイベントやフェア、本屋さん訪問など涙をのんで見送ってきたわけです。
でも丸善丸の内本店さんで『10代のためのYAブックガイド150!』全点フェアをやるというお話をきいて、しかも4月28日までやっている!(ありがたや長期開催)とのことでこれは行けるのではないかと日程を調整いたしました。あ、と言ってもわたしは現在毎日家にいて特に予定もないので、お出かけの介添えをしてくれる夫の日程を・・・ということですけど。
その念願かなって先日、ついに行ってきました。
いや〜どのくらいぶり!?東京駅!!
大きいね〜!人だらけだね〜!
キラッキラしてるね〜!!
と無駄にテンションがあがり、丸善に行きつくまでに迷子になりそうなくらい(いや、駅出て目の前なんですけど・・・)。
行ったことがある方はわかるかと思いますが、丸善丸の内本店は丸の内OAZOというビルの1Fから4Fに入っている本屋さんで、すべて見ようと思うと1日くらいあっという間にたってしまう恐ろしくもうれしい場所であります。
もし時間があれば雑紙から実用書から文芸文庫とじっくり棚をなめまわし・・・あ、いや拝見していきたいのですが、残念ながら子どもの授乳時間を考えるとあまり時間がとれないので、今回はまっしぐらにフェアの展開されている児童書売り場を目指しました。
こちらがそのフェア!!
※お店の方に許可をいただいて撮影、掲載しております。
どーーーーん!!と迫力満点!
やはり150冊すべて並べると貫禄が違います。
メインはこの本、『10代のためのYAブックガイド150!』初心者おすすめ度★★★★★(翻訳物だけじゃないですが、たくさん載ってます!)
このブックガイドについて少々ご紹介させていただくと、こちらは児童文学の翻訳家金原瑞人さん、児童文学作家であり、評論家のひこ・田中さんが監修されたティーンエイジャー向けのブックガイドです。
突然ですけどみなさん”YA"っていう言葉はご存知ですか?
わたし・・・実は書店員になるまで知らなかったんですよね〜。
YAつまりヤングアダルトのことなんですけども、正直このアルファベット2文字・・・いや、ヤングアダルトというジャンルさえ日本ではあんまり浸透していないように感じます。書店に行っても、かなり大きなところじゃなければわざわざYAというジャンルで棚をもうけているところは少ないでしょう(というか日本ではライトノベルになるのか?)。
でも実は海外(特に英語圏かな?)ではものすごくポピュラーなジャンルなのですね。
だからこの手の翻訳小説には、名作があふれているんです!
そしてまだまだ日本では知られてないものが多いです。
これを10代に独占させるのはもったいないでしょう!!
このブックガイドはそんな大人のみなさまにもうってつけ。
27人の選者たちによる(まことに恐れ多くもわたしも参加させていただいております)選りすぐりの本たちがジャンルごとになんと150冊も紹介されています。
各ページ、選者たちの推薦文を読んでいるだけでも非常におもしろく、わたしの本はドッグイヤーだらけになりました。
見てコレ!!
翻訳ものだけじゃないし、普通に大人むけに書かれている小説や、ノンフィクション、詩や短歌集などものっているのもうれしいところ。わたし本当に個人的にこういうの欲しかったですよ。なかなかないもの、こんなバラエティ豊かなブックガイド。
そしてもう一つ、こういう児童文学ガイドにありがちないつもの名作ばかりとはなっておらず、ここ最近刊行されたものに限って選んだものになっているのもいいんですよね〜。だから、あぁこんなのもあったんだという発見に満ちたものになっているんじゃないかなぁ・・・。
さてさて、話をフェアの方に戻しますが、今回わたしが突然伺ってしまったので(何しろ乳児を連れての外出はかなり不確定要素が強いので・・・すみません)残念ながらご担当の兼森さんにはお会い出来ず、きちんとお話を聞くことはできなかったのですが、フェアも中盤にさしかかって『YAブックガイド』かなり売れているようでした。
わたしはたくさんドッグイヤーした欲しい本の中から、今回はデイヴィッド・アーモンド『ミナの物語』を購入。
友人からこの物語の後日潭『肩胛骨は翼のなごり』を勧められて、気になっていたのでこちらも合わせて読んでみようと思ったからです。
しかしどっちから読んだらいいんだろう。肩胛骨の方が先に出ているんだからそっちから読むべきなのか、それともそれより前の話なのだからミナの方を読むべきなのか・・・迷うなぁ。
児童書コーナーは、このフェアの他にも梨木香歩の『岸辺のヤービ』フェアをやっていたり、金原さんと同じく児童書翻訳家の三辺律子さんが発行しているフリーペーパー『BOOKMARK』のフェアをやっていたり、心躍る展開がたくさんでした(わたしが行った3月下旬時点)。
『10代のためのYAブックガイド150!』のフェアは4月28日まで開催しているそうなので、みなさまもぜひ足を運んでみてくださいね。
春は出会いの季節。
みなさまに素敵な本との出会いがありますよう、お祈り申し上げます。
はじめての海外文学必読書!『翻訳百景』のすすめ
さっそくですが、本当はもう少し落ち着いてからにしようと思っていたブログリニューアルをどうしても今やらねば、そしてこれを紹介せねば!と思わせられた1冊をまずはご紹介したいと思います。
『翻訳百景』 越前敏弥 角川新書 初心者おすすめ度 ★★★★★ (っていうかもうマストリード)
はい、こちらです! (リンク下は著者越前さんの同名のブログです)
この本自体は海外文学ではないのですけどね。
タイトルからもわかるように、翻訳という仕事についてのあれこれを決して専門的にというわけじゃなく、誰にでもなじみやすいことばで浮き彫りにした1冊です。
普通に考えたら少しでも翻訳という仕事に興味を持っている人たちが読む本なのかもしれません。
でもこれ、わたしは今まで海外文学を敬遠してきた方にこそ本当におすすめしたいのです。
著者の越前敏弥さんは、海外文学好きじゃなくても誰もが知っている、世界中を席巻したあの『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめとするラングドンシリーズをすべて翻訳していらっしゃる翻訳家です。
ところで翻訳家という仕事について、今まで考えたことがある方いらっしゃいますか?
”ある”という方、もうすでに海外文学はけっこう読まれているのではないでしょうか。
わたしは海外文学もともと好きでしたけれど、おもしろそうと思ったものを片っ端から手に取るというだけで、例えばその作品に別の翻訳が出ているかもしれないということはあまり考えなかったし、ましてや翻訳家という仕事がどういうことをするものなのか、英語ないし他の言語を日本語に訳す……ということ以外はまったく知りませんでした。というより正直あまり考えたことがなかったのですね。だいたいみんなそうなんじゃないかなぁと勝手な憶測ですが思うんです。
ところが書店員になってから(あ、わたし元書店員なのですが)何人かの翻訳家の方々と出会い、お話を聞くにつれて、これはどうやらとんでもなく深い仕事をしている人たちだぞということがわかってきました。
それで興味を持つようになりました。でもやっぱりどうも具体的にどんなことをしているのかは判然としなかった。基本的に翻訳家さんというのは自分は裏方の仕事であるということを意識していらっしゃる方が多いのか、あまり前に出ていらっしゃらない。越前さんもこの本の最初のほうで仰っていますが、やはり著者や作品のイメージをくずさないように自分は写真なども公表しないようにしていたということでした。
やっぱり!!
でも知りたいんですよ。
英語だけだって作家によって表現の仕方はまったく違っていて、同じ言葉でもこの作品はこう訳すとか、時代背景に合わせて語尾を変えるとか……こちらはもっとリズムを重視したほうがいいから日本語は全然変えてみる……とか、それこそ正解のない世界。それなのにその訳によって日本の読者の受け止め方がまったく変わってしまうという、かなり責任重大な仕事ですよ。生半可な努力じゃ出来る気がしません。
そんなふうに思っていたときに、この本が発売されました。
さっそく読んでみて、気になっていた翻訳家という仕事についてかなり知ることができたということ以前に、この本がものすっっっっっっっっっっっっっっっっっごくおもしろくて、ひっくり返りそうになりました。
あのこれ大げさじゃないですよ。
本当にページをめくる手が止まらなかった。
本書は
第一章 『翻訳の現場』
第二章 『ダ・ヴィンチ・コード』『インフェルノ』翻訳秘話
第三章 『翻訳者への道』
第四章 『翻訳書の愉しみ』
という四部構成になっています。
それぞれが翻訳の仕事やそれにまつわるあれこれについて、実体験を元に越前さんのことばで語られています。このブログを読まれている方の中には、わたし翻訳者を目指しているわけじゃないから、少なくとも第一章と第三章は読まなくてもいいなと思われた方もいるかもしれないけど、ちょっと待ってください。
そこがまずおもしろいの!
第一章では、まずは翻訳者と言っても文芸翻訳とは何か、他の翻訳者とどこが違うのかというところからはじまります。これが本当に丁寧にユーモアあふれる文章で教えてくれていて、わたしも改めてあぁ自分はここからまず分かっていなかったんだなと気づくことになりました。
それから過去に交わした優秀な編集者さんとのお仕事。なんとやり取りしたゲラ(校正中の原稿)がそのまま載っています。これがもう面白いなんてもんじゃない。だって普段見ることできないじゃないですか、翻訳者と編集者のやり取りなんて。トル(校正用語でいらないことばを取ること)とか書いてあるんだよ(ソコ!)。
そんな現場での実際の仕事を、ばーんとおしげもなく見せてくれているのが第一章なのです。
そして第三章は、これはもういろんなところにブックマークしたくなるし、線を引きたくなりますよ。やはり、第一線で活躍される方の努力は並大抵のものじゃないのです。わりとさらりと書いていらっしゃいますが、それはもう驚きの連続でした。そして失敗に対する考え方も、やっぱり違うなぁと。今からでも心に刻もうと目の覚める思いで読みました。ここでは教えない。読んでくださいね。にっこり。
そんな第一章と第三章はぜひともじっくり読んでもらいたいところなので、読み飛ばさないように! (と言っても1ページでも読んでもらえれば読み飛ばすことなんてもう不可能なのですが)
そしてもちろんあの『ダ・ヴィンチ・コード』や『インフェルノ』秘話が読める第二章、それから記憶に新しい『ストーナー』などの翻訳家東江一紀さんの一周忌に行われた『ことばの魔術師東江一紀の世界』のイベントについて(当ブログでも報告していました)や、『思い出のマーニー』翻訳秘話など興味深い話が目白押しの第四章はもう目が離せなくなって一気読み必須です。
とここまで内容について書いてきましたが、内容もさることながらこの本の何が一番魅力的なのかと考えたところ、やはり越前さんの人柄なんだろうなと思います。
そりゃあすごい方なんですよ。KADOKAWAだって『ダ・ヴィンチ・コード』とか社運を変えるくらいの本の翻訳を、誰でもいいとは思ってないです。
でもこの文章は少しもきどっていなくて、自然体。それ以上にそこかしこからあふれる本と翻訳という仕事への愛がこれまた自然に、そしてユーモアとともに書かれていて好きにならずにはいられません。
だからこそ。
この本を、翻訳小説はあんまり読まないなぁ、とか、訳文が苦手で……とか思っている方にぜひとも読んでみてほしいんです。
あのよくテレビとかでありますよね。
お仕事の舞台裏を特集する番組。それこそ『情熱大陸』とか……?
ああいうのを見るととたんに今まで興味のなかった世界に色がついて、ものすごく魅力的に思えてきたりしませんか?
この本にはああいう面白さがありました。
今まで知らなかった、考えてみたこともなかった翻訳という仕事。
たまにはそういう自分には必要ないと思っていたことを知るということもいいんじゃないでしょうか。
新しい世界が開けるかもしれないし、もしそうじゃなかったとしてもこの本はこれだけで十分面白いですからご安心を!
わたしはもう書店員ではないので、この本を売り場に並べることができないのですが、もし出来たとしたら間違いなく文芸書売り場の海外文学コーナーに並べます(本来はだいたい新書売り場かな)。
『海外文学苦手?
ならばまずこれを読め!!』
というPOPをつけて!